趣味として独学で自宅のガレージでワインを造り始め、「カリフォルニアで最初の100ドルを越えたピノノワール生産者」となり、「ブルゴーニュのレストランでオンリストされた最初のカリフォルニア・ピノノワール生産者」となったロシアン・リバー・バレーのピノノワールを世界に知らしめた伝説のワイナリー「Williams Selyemウィリアムズ・セリエム」の歴史と栄光の軌跡をご紹介します。
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ウィリアムズ・セリエムについて
1979年、サンフランシスコにある新聞社の印刷担当として働いていた41歳の
Burt Williamsは、ロシアン・リバー・バレーにあるSpeer’s Marketのワイン購入者であり会計士でもある
Ed Selyemと週末の時間を利用して、ForestvilleのBurt Williamsの家のガレージで趣味としてワイン造りを楽しんでいました。
当時、Burt WilliamsとEd Selyemはロシアン・リバーを挟んで向かい側に住んでおり、友人同士でもありました。
1981年になると商業的にワインの製造を開始し、ワイナリーをHacienda Del Rioと名付けました。商用のHacienda Del Rioのラベルの下ではSonoma County Pinot Noir、Dutton Ranch Pinot Noir、Iron Horse Vineyards Pinot Noir、Martinelli Vineyard Zinfandelがリリースされました。
Burt Williamsはワイン造りに専念し、Ed Selyemは商業的な役割を担当しました。
1983年にHacienda Del Rioのファーストヴィンテージをリリースすると、ソノマのHacienda Wineryから「Hacienda」の名前を削除するよう求められ、2人の名前を取ってWilliams Selyemウィリアムズ・セリエムに変更。
※ソノマ郡Guernevilleにあるメキシコ料理レストラン「Hacienda Del Rio」との重複を避ける目的もありました。
そして、1984年にFultonのRiver Roadにあるレンタルガレージに引っ越し、ウィリアムズ・セリエムのファーストヴィンテージをリリースする事になります。
Burt Williamsはサスペンダー付きのカラフルなスポーツシャツを好み、Ed SelyemはTシャツとブーツを好みました。
どちらもシンプルに生き、ワイナリーの宣伝はしませんでした。ワイナリーの場所を告げる看板も無ければ、テイスティングルームもありませんでした。
1985年にJoe Rochioli Jr. が運営するRochioli Vineyards West Blockから指定のピノノワールを仕入れ、ワインを造りました。
このWilliams Selyem Pinot Noir Rochioli Vineyard 1985が1987年開催のCalifornia State Fairで最優秀賞を受賞。
416のワイナリーから出品された2,136のワインの中でトップに輝いたのです。ウィリアムズ・セリエムのみならずRochioli Vineyardsをも有名にしたのでした。
そして、ウィリアムズ・セリエムは1989年12月にRochioli Vineyardsの向かい側にあるAllen VineyardのオーナーHoward Allenが建てたWestside Roadの質素なワイナリーに引っ越しました。
1990年代のウィリアムズ・セリエムの生産量は約4,000ケースでしたが、1998年には8,000ケースにまで増加しました。それにも係わらずメーリングリストに載るのを待つのに2年近くもかかる程の大人気でした。
1992年にはDomaine de la Romanee-ContiのナパバレーのインポーターであるWin WilsonとJack Danielsがウィリアムズ・セリエムにコンタクトを取りテイスティングを申し出ました。
Win WilsonとJack Danielsは22種類のワインを5時間かけてチェックしていきました。この頃までにウィリアムズ・セリエムはDomaine de la Romanee-Contiにまで影響を及ぼす存在となっていたのです。
Burt Williamsがウィリアムズ・セリエム売却を決断 それぞれの第2章へ
1998年ニューヨークのHudson ValleyでMillbrook Wineryを運営しているJohn Dysonにウィリアムズ・セリエムを950万ドルで売却しました。
John Dysonは以前からウィリアムズ・セリエムの大ファンだったそうで、メーリングリストのメンバーにもなっていました。
ワイナリーは施設や畑を所有していなかったのでブランドと在庫のみの販売となりました。
ウィリアムズ・セリエム売却の理由は次のような理由でした。当時、ウィリアムズ・セリエムのワインはあまりにも人気があり、メーリングリスト、ウェイティングリストの顧客から常にプレッシャーを感じていました。
また、Ed Selyemには持病があり、あと3年ワイナリーでの職務を続ければ体に麻痺症状が起こる可能性があると担当医師に告げられていたのです。
このような理由からEd Selyemはワイナリーから離れる事を望み、自身の持ち株の25%をBurt Williamsへ売却し財政面で相談したいと考えました。
Burt WilliamsはEd Selyemの財政的サポートにはワインの生産量を倍程度のレベルで数年間維持する必要があると考え、これが自身のキャパを遥かに超えている事に気付きました。
そして、ついにBurt Williamsはワイナリー売却を決めたのです。この売買契約には5年間のワイン製造に関するアドバイスと、その後5年間の競合禁止が含まれていました。
Burt Williamsの提案で新オーナーになったJohn Dysonは
Bob Cabralをワインメーカーとして迎え入れました。
Bob Cabralはカリフォルニア州セントラル・バレー南部にあるSan Joaquin Valley出身の農家育ちで、DeLoach、Kunde、Alderbrook、Hartford Court等で経験を積んだ人物。
ロシアン・リバー・バレーのピノノワール、特にウィリアムズ・セリエムのワインにとても精通していました。1998年の買収後すぐにJohn Dysonはウィリアムズ・セリエム初のエステートブドウ畑となる土地をGuernevilleに購入しました。さらに2001年には51エーカーの土地を追加し、Litton Estate Vineyardと名付けました。
一方、Burt Williamsは、ウィリアムズ・セリエム売却後、メンドシーノ郡アンダーソン・バレーに40エーカーの土地を購入し、1999年から2001年の間に12.5エーカーのピノノワールを植えました。
そして、Morning Dew Ranchと名付け、2004年からBrogan Cellars、Woodenhead、Whitcraft、Williams Selyem、Miura、Drew Family Cellars等にブドウを販売しました。Burt Williamsのワイン醸造に対する情熱が復活し、ウィリアムズ・セリエム売却時に締結した競合禁止契約の期限が切れると、2008年からピノノワールを造り始めます。
新体制になっても勢いが止まらないウィリアムズ・セリエム
2009年にWine Enthusiast Magazineは、Williams Selyem Litton Estate Pinot Noir 2007に100ポイントのスコアを授与し、主要なワイン出版物から完璧なスコアを獲得した北米初のピノノワールとしてその名を広めました。
※Wine Enthusiast Magazineはニューヨークに本社を構えるワイン雑誌で世界各国約80万人の読者を持ち、多大な影響力を持つ媒体です。
※Williams Selyem Litton Estateは2010年にWilliams Selyem Estateに名前を変更しています。
2010年後半にはウエストサイドロードに最先端のワイナリーを完成させます。
総費用約1,500万ドルの新ワイナリーは、ワイン樽の形を意識して建てられており、隣接する駐車場の屋根に取り付けられた太陽光パネルで部分的に電力が供給されています。
高いガラスパネルの後ろには樽が積み重ねられており、中に入ると歴代のウィリアムズ・セリエム・ワインボトルが高々と飾られています。
2011年になるとワインメーカーBob CabralがWine Enthusiast MagazineによってWinemaker of the Yearに選ばれました。2012年1月30日にニューヨーク市で開催された式典で表彰されました。
一方、Burt Williamsもまだまだ勢いがあります。同じく2011年にBurt Williamsが並外れた長期熟成型のカリフォルニア・ピノノワールをマスターした最初の1人として表彰されBurt Williams Tribute Dinnerが開催されました。
このディナーはHealdsburgのDry Creek Kitchen Restaurantで開催され、Burt Williamsに触発された人々、彼と一緒に働いた栽培者、そして多くの親しい友人や家族が出席しました。
ディナーで歴代のウィリアムズ・セリエム・ワインが提供されると、Burt Williamsは表彰台に上がり、各ワインに関するエピソードを話しました。
2013年にウィリアムズ・セリエムにて進展があります。Bob Cabralに代わって
Jeff Mangahasがウィリアムズ・セリエムのワインメーカーを引き継ぎます。
Jeff Mangahasはワシントン大学で細胞分子生物学の学士号を取得し、シアトルで研究科学者としてのキャリアを積んだJeff Mangahasは趣味のワインを自身のキャリアにしたいと思うようになりました。
その後、Artesa Vineyardsで修業し、Dutton-Goldfieldでアシスタントワインメーカーを務め、Hartford Family Wineryでワインメーカーに就任した経歴を持ちます。
2014年にロシアン・リバー・バレーのイーストサイドロードにあるLewis Macgregor Estate Vineyardを購入。2013年にこの畑から購入した5トンのシャルドネに感銘を受け、この畑が売りに出された事で真っ先に購入しました。
さらに、2016年にはOlivet Roadにある33エーカーのSaitone Vineyardを購入しました。26エーカーの畑のうち12エーカーには100年以上前のジンファンデルが植えられていました。
この地域に定住したイタリア移民であるサイトーネ家が守り続けてきたジンファンデルをウィリアムズ・セリエムで引き継ぎ、守り続けていく事にしました。
リリースワイン一覧
ウィリアムズ・セリエムでは、北はアンダーソン・バレー、西はフォート・ロス・シー・ビュー、南はサンベニト郡からブドウを調達しており、ピノノワール、シャルドネ、ジンファンデルの他にゲヴェルツトラミネール、ミュスカ、ポートもリリースしており、その種類は実に40以上になります。ここでは、当編集部が厳選した8種の畑をご紹介します。
Rochioli Vineyard
隣人であるJoe Rochioli Jr.が運営するRochioli VineyardsのWest Blockから指定のピノノワールを仕入れ、ピノノワールをリリースしました。
そして、ウィリアムズ・セリエムによってリリースされた最初のブドウ園指定ピノノワールがこのロキオリ・ヴィンヤード1985でした。
また、Williams Selyem Rochioli Vineyards 1987はカリフォルニアステートフェアで赤ワイン部門の最優秀賞を獲得しています。
Allen Vineyard
Allen Vineyardは4世代続く農家で、Howard Allenは1970年代にプルーン果樹園だったロシアン・リバー・バレーの畑をシャルドネとピノノワールに植え替えました。
隣人にはロキオリ・ヴィンヤーズとウィリアムズ・セリエムがおり、1980年代からウィリアムズ・セリエムにブドウを提供し、ウィリアムズ・セリエムがリリースした2番目のワインです。
Summa Vineyard
Occidentalの西エリアTaylor Laneにある1979年から続く畑でウィリアムズ・セリエムとしては1988年がファーストヴィンテージ。
Williams Selyem Pinot Noir Summa Vineyard 1991は、カリフォルニアで最初の100ドル超えのピノノワールでした。
ちなみに1995年ヴィンテージのこのワインはBurt Williamsが最もお気に入りのウィリアムズ・セリエム・ワインとの事です。
Litton Estate Vineyard
2002年にWestside Road沿いに購入した土地で、そのクオリティの高さから
2009年にWine Enthusiast MagazineからWilliams Selyem Litton Estate Pinot Noir 2007に100点満点のスコアが付与されました。
現在はワイナリーでのみテイスティング又は販売されている限定ワインとなっています。また、Litton Estateは2010年にWilliams Selyem Estateに名前を変更しています。
Olivet Lane Vineyard
イタリア系移民のThe Pellegrini Familyを先祖に持つVincentが1973年にSanta RosaのWest Olivet Roadに購入したリンゴ園の土地にシャルドネとピノノワールを植えた土地です。
Olivet Laneはロシアン・リバー・バレーで最初にピノノワールを栽培した畑のうちの1つで、ウィリアムズ・セリエムからはシャルドネとピノノワールの2種類がリリースされています。1987年がファーストヴィンテージ。
Saitone Vineyard
2016年に購入したロシアン・リバー・バレーのOlivet Roadにある33エーカーの畑で、1895年にAntonio Saitoneによって設立された歴史ある畑です。
また、100年以上前のジンファンデルのブドウが植えられており、ウィリアムズ・セリエムではこれを引き継いでSaitone Vineyardから収穫された樹齢の古いジンファンデルをリリースしています。
その他にカリニャンやミュスカデル、フレンチ・コロンバール等も植えられています。
Drake Estate Vineyard
Drake Estate Vineyardはロシアン・リバー・バレーの
Guernevilleの向かい側にあり、Roscoe Drakeによってリンゴとプルーンが植えられていた畑で、ウィリアムズ・セリエムが土地を取得した後、ピノノワールに植え替えた畑です。
この場所はロシアン・リバー・バレーの中流にあり、日中は非常に暖かく、夜は霧によって冷やされるため、ブドウ栽培には最適でした。
Morning Dew Ranch Vineyard
ウィリアムズ・セリエムの創設者Burt Williamsがワイナリーを売却した後に購入した畑で、メンドシーノ郡アンダーソン・バレーの北端に位置し、非常に冷涼な気候で比較的標高が高い場所にあります。
ウィリアムズ・セリエムでは2008年のファーストヴィンテージから2015年にナパバレーのCastello di Amorosaワイナリーに売却されるまでの間、Morning Dew Ranch Vineyardからブドウを仕入れていました。
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晩年のウィリアムズ・セリエム創設者 Burt WilliamsとEd Selyem
Ed Selyemが療養も兼ねてハワイとアラスカの家に隠居する一方で、Burt Williamsはカリフォルニアに残り時折、イベントに参加し、ワイン業界で指揮を執っていました。自身のワイナリーはいくつかのヴィンテージで収穫量が少なかった事と2008年にアンダーソン・バレーで大規模な火災があった事が重なりBurt Williamsは燃え尽きてしまいました。
そして、2015年11月、1,920,000ドルでMorning Dew RanchをナパバレーのCastello di Amorosa Wineryへ売却しました。
翌年、2016年にBurt Williamsはパーキンソン病と診断されました。当初は活動的でしたが、最終的に中枢神経に障害が及んでしまいました。
2019年12月12日、Burt Williams(1940-2019)はパーキンソン病の合併症で亡くなりました。享年79歳でした。Burt Williamsの妻と2人の娘、4人の孫、3人の曽孫は健在です。
週末、自宅のガレージで趣味の一環としてワインを造り、カリフォルニア・ピノノワールのパイオニアとまで呼ばれるようになった伝説の醸造家Burt Williamsの精神と彼が築き上げた世界クラスのワイナリー「ウィリアムズ・セリエム」は後世に受け継がれ、今なおカリフォルニア・ピノノワールのトップを走り続けています。
テイスティング・レポート
Williams Selyem Chardonnay
2020年6月24日
Heintz Vineyard Chardonnay 2012
香りは柑橘類やライムの中にヘーゼルナッツや蜂蜜のニュアンスが取れる。味わいは甘みがソフトで酸味がシッカリしている。苦味は比較的シッカリと感じられる。
Olivet Lane Vineyard Chardonnay 2013
香りはリンゴやパイナップルの中にほんのりスパイスと蜂蜜のニュアンスが取れる。味わいは甘みがソフトで酸味が非常にシッカリしている。苦味は穏やか。
Allen Vineyard Chardonnay 2013
香りは柑橘類やレモンの中に若干のヘーゼルナッツやスパイスのニュアンスが取れる。味わいは甘みがソフトで酸味がシッカリしていて長く続く。苦味は穏やか。
Lewis Macgregor Estate Vineyard Chardonnay 2014
香りは柑橘類やライムの中にローストアーモンドのニュアンスが取れる。味わいは甘みがソフトで酸味がシッカリしている。苦味は穏やか。
Drake Estate Vineyard Chardonnay 2015
香りは柑橘類や青リンゴの中にカモミールのニュアンスが取れる。味わいは甘みがソフトで酸味がシッカリしている。苦味は穏やか。
ウィリアムズ・セリエムが手掛けるシャルドネはどれもシッカリとした酸味があり、樽が効き過ぎず、ミネラル感のある印象を与えるという共通点がありました。
Williams Selyem Pinot Noir
2020年6月24日
Olivet Lane Vineyard Pinot Noir 1992
香りは甘いベリーの熟した香りの中にスモーキーなニュアンスが取れる。味わいは甘みがまろやかで酸味が非常にシッカリしている。苦味は熟成により溶け込んでいる。
Allen Vineyard Pinot Noir 1993
香りはジャミーなイチゴやラズベリーの香りと赤スグリのニュアンスが取れる。味わいは甘みがまろやかで酸味が非常にシッカリしている。と苦味は熟成により溶け込んでいる。
Hirsch Vineyard Pinot Noir 1996
香りはラズベリーやチェリーの香りの中に紅茶のニュアンスが取れる。味わいは甘みがまろやかで酸味が非常にシッカリして長く続く。苦味は熟成により溶け込んでいる。
Rochioli Riverblock Vineyard Pinot Noir 1998
香りは甘いブラックチェリーやプラムの中にアカシアの花とインクのニュアンスが取れる。味わいは甘みがまろやかで酸味がシッカリしている。苦味は緻密。
Precious Mountain Vineyard Pinot Noir 1998
香りはラズベリーやプラムの香りの中に黒すぐりと若干の紅茶のニュアンスが取れる。味わいは甘みがまろやかで酸味がシッカリしている。苦味は緻密。
Weir Vineyard Pinot Noir 1999
香りはプラムやチェリーやラズベリーのような明るい赤系果実の中に若干のシナモンのニュアンスが取れる。味わいは甘みがまろやかで酸味が非常にシッカリしている。苦味は熟成により溶け込んでいる。
Williams Selyemのピノノワールはシャルドネ同様、シッカリとした酸があるのが共通点としてありました。当編集部ではAllen Vineyard Pinot Noir 1993とHirsch Vineyard Pinot Noir 1996が得に高評価でした。
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