キスラー・ヴィンヤーズでは各ブドウ畑で同じクローン、栽培技術、醸造方法でワインを造る為、その土地のテロワールが畑ごとによく表れているのが特徴です。かのロバート・パーカーは言いました。
『キスラーがブルゴーニュのコート・ドールの真ん中に魔法のように運ばれれば、すぐにブルゴーニュのグラン・クリュの生産者と同じくらい輝かしい評判を得るでしょう』と。キスラー・ヴィンヤーズは、伝統的なブルゴーニュの技術を使って、カリフォルニアで世界クラスのシャルドネとピノノワールの醸造に専念する最上級のワイナリーです。
キスラー・ヴィンヤーズについて
1978年、キスラー・ヴィンヤーズは、ソノマ・バレーの約2000フィート上にあるマヤカマス山脈の尾根にスティーブ・キスラーSteve Kistlerとマーク・ビクスラーMark Bixlerによって設立されました。
当初はウォーレン・ダットンからの買いブドウでワインを造っていました。実は創業時にスティーブの弟であるジョン・キスラーも参画していましたが最終的にキスラー・ヴィンヤーズを去ります。
祖父がブルゴーニュワインの熱心なコレクターであったというスティーブ・キスラーはスタンフォード大学でクリエイティブ・ライティングの学士号を取得し、カリフォルニア大学デービス校とフレズノ州立大学で2年間勉強し、リッジ・ヴィンヤードRidge Vineyardsで2年間アシスタントを務めた後、1978年にキスラー・ヴィンヤーズを設立しました。
キスラー・ヴィンヤーズではオーナー兼ワインメーカーを担当。マーク・ビクスラーはマサチューセッツ工科大学とカリフォルニア大学バークレー校で化学を学びました。その後、フレズノ州立大学で7年間化学を教え、2年間フェッツァー・ヴィンヤードFetzer Vineyardsで働きました。
キスラー・ヴィンヤーズでは主にビジネスマネージャーを務め、販売とマーケティングを担当しました。同時に研究室も運営。
新ワイナリーで次のステージへ
キスラー・ヴィンヤードは、最初のワイナリーで14年間を過ごした後、1992年の収穫に間に合うように、サンタローザの西数マイルにあるセバストポルのヴァインヒルロードに20エーカーのブドウ園用地を購入し、新しいワイナリーを建設しました。
この新ワイナリーは超近代的な設備を備えており、特に観光客向けではなく、彼らのワイン造りの為に設計された施設でした。
特筆すべき特徴は、熟成に使用される地下にある7つの大きな砂利床のバレルルームです。
ルームは個別に温度制御され、断熱されています。大きな樽熟成スペースにより、キスラーは瓶詰めの準備が完全に整うまで、ワインをそのままにしておく事が出来ます。これは、白ワインを造るブルゴーニュのトッププロデューサーによく見られる手法です。
9種類のシャルドネと4種類のピノノワール
Chardonnayシャルドネ
キスラーではエステートのブドウ畑に加えて、常にロシアン・リバー・ヴァレー、ソノマ・コースト、ソノマ・マウンテン、カーネロスの厳選したブドウ畑から果物を購入しています。
Sonoma Coast AVAソノマ・コースト
かつてリンゴ栽培地域だったこの場所は、かのWarren Duttonウォーレン・ダットンが所有する畑のうちキスラーが指定した区画になります。
この冷涼で独特な土地をスティーブ・キスラーとマーク・ビクスラーは「非常に凝縮され、複雑なシャルドネが出来る最高の場所」であると言っています。
Sonoma Mountain AVAソノマ・マウンテン
当初はシャルドネの他にカベルネ・ソーヴィニヨンも植えられていました。
※1992年が最後の生産。
1989年からスタート。名前の由来はスティーブ・キスラーの妻の名前です。
また、Kistler Chardonnay Cuvee Cathleen 2003はロバート・パーカーの評価基準パーカーポイントで、100点満点を獲得しております。
Los Carneros AVAロス・カーネロス
カーネロスの中心部に位置し、海洋性砂質ロームの土壌からミネラル豊富なエレガントなワインが造られます。
ナパ郡の南西部に位置し、火山性土壌と海洋堆積物の土壌が混合した珍しい土地で、ヨードと牡蠣殻から強いミネラル感のあるワインが造られます。
1979年にEd Durellが購入した畑で、現在はBill Priceが所有しています。1986年にキスラーが最初に買い付けを始めました。
Durell Vineyardから道1本隔てたすぐ隣の区画で、爽やかなDurell Vineyardの印象とは対照的に華やかな香りを伴うワインが造られます。
Pinot Noirピノノワール
2000年代後半には、シルバーベルト(キュヴェナタリー)、オクシデンタルステーション(キュヴェキャサリン)、ボデガヘッドランズ(キュヴェ・エリザベス)を含む3つの沿岸ブドウ園から小規模生産シングルピノノワールが登場しました。
2014年ヴィンテージまではKistler Vineyardとしてリリースされていましたが、同一名で全く別の場所にあるシャルドネ畑Kistler Vineyard Chardonnayと混同してしまう為、2015年ヴィンテージからはLaguna Ridgeに改名されました。
Natalieはビル・プライス(2008年からKistler Vineyardsのオーナー)の娘にちなんで付けられた名前。
2005年以来、シングル・ヴィンヤード・シリーズKistler Vineyards Pinot Noir Cuvee Catherine Occidental Station Vineyardの供給源でしたが、2011年ヴィンテージでキスラーの新ブランドOccidentalが登場した際にKistler VineyardsからOccidental Winesへ移行しました。
Catherineはキスラーの2人の娘のうちの1人の名前。
2004年以来、シングル・ヴィンヤード・シリーズKistler Vineyards Pinot Noir Cuvee Elizabeth Bodega Headlandsの供給源でしたが、2011年ヴィンテージでキスラーの新ブランドOccidentalが登場した際にKistler VineyardsからOccidental Winesへ移行しました。Elizabethはキスラーの2人の娘のうちの1人の名前。
※キュヴェ・エリザベスは1998年から2003年までオクシデンタル・ヴィンヤードで生産されていましたが、このブドウ園をイヴニング・ランドに売却し、2004年よりボデガ・ヘッドランズ・ヴィンヤードの単一ブドウ園で生産されるようになりました。
また、Kistler Pinot Noir Occidental Vineyard Cuvee Elizabeth 1999は、ロバート・パーカーの評価基準パーカーポイントで100点満点を獲得しております。
ピノノワールへの挑戦
1980年代にカベルネ・ソーヴィニヨンを追求するも、ピノノワールが彼の心の欲望である事に気づき、ロキオリやウィリアムズ・セリエムなどのピノノワールの先駆者とほぼ同時にピノノワールの世界へ足を踏み込みます。※カベルネ・ソーヴィニヨンは1992年の生産が最後となりました。
ピノノワールについては、ソノマ郡西部とボデガ湾東部の沿岸地域に焦点を絞りました。ソノマ郡キャンプ・ミーティング・リッジでブドウを栽培しているフラワーズ夫妻、そして海岸から2番目の尾根にあるフォート・ロス・シー・ビューエリアで、ブドウ栽培をしているデイヴィッド・ハーシュに会いました。
そして、1993年から2004年までこの2つの畑からピノノワールを造り、キスラーのラベルの下でそれらを瓶詰めしました。
1995年にはTaylor LaneテイラーレーンのSumma Vineyardスーマヴィンヤードの向かい側にある4エーカーの土地にピノノワールを植え、Occidental Vineyardオクシデンタル・ヴィンヤードと名付けました。
こうしてキスラー・ヴィンヤーズは1998年までに3つ(キャンプ・ミーティング・リッジ、ハーシュ、オクシデンタル)のピノノワールをリリースする事に成功しました。
更に1999年にBodega Headlandsボデガ・ヘッドランズ、2008年にボデガ・リッジBodega Ridgeに土地を購入し、ピノノワールのラインナップを拡張します。
衝撃!キスラー・ヴィンヤーズを売却
新ブランドOccidental Winesオクシデンタル・ワインズ
スティーブ・キスラーはキスラー・ヴィンヤーズ設立前に修業していたRidge Vineyardsリッジ・ヴィンヤーズが、海岸沿いという立地から素晴らしいワインを造っていた事に影響を受けました。その後、2011年にフリーストーン・オクシデンタルエリアのボデガの町のすぐ東の太平洋が見下ろせる場所で、新ブランドOccidental Winesオクシデンタル・ワインズを立ち上げます。
ソノマ・コーストでピノノワールが栽培できる場所の中では最西端というこの土地は、太平洋に近い事で、日中の最高気温は涼しく、夜間の最低気温は内陸数マイルよりも温暖である為、果実は昼間だけでなく夜もゆっくりと熟し、最高品質のワイン造りが可能となります。
そして、キスラー・ヴィンヤーズで2人の娘の名前が付けられた特別シングルヴィンヤードKistler Vineyards Pinot Noir Cuvee Catherine Occidental Station VineyardとKistler Vineyards Pinot Noir Cuvee Elizabeth Bodega Headlandsをオクシデンタル・ワインズへ移行し、世界クラスのピノノワール造りへの挑戦をスタートさせました。
参照元:occidentalwines.com , skurnik.com , jsfashionista.com
Trenton Roadhouseトレントン・ロードハウスにオープンした最初の試飲施設
2014年、キスラーは、ソノマ中央部にある約60エーカーの敷地(トレントン・ロードハウス)に最初の2階建て木造試飲施設を開設しました。
ここはもともと1920年に建てられた農家と納屋があった土地で、これらの建物を改装して造られました。
周囲のブドウ畑を一望できるこの施設は、1階のテイスティングルームで8人まで収容可能。明るく風通しの良い2階のテイスティングルームでは、最大22人までの大規模なパーティーが開催可能となっております。
ゲストは大きな石で舗装された中庭や、花で覆われたパーゴラの下、ブドウで覆われた丘の間でリラックスできます。
30年の歴史を持つキスラー史上初の素晴らしいプライベートワインテイスティング施設は、ソノマ・ナパで最高のテイスティング体験を実現する場所と称賛されるようになりました。
参照元:j-m-a.com , archello.com
小川汚染で579,700ドルの支払いを余儀なくされたスティーブ・キスラー
スティーブ・キスラーが新たに立ち上げたボデガハイウェイの所有する敷地の貯水池から出る堆積物が、産卵魚を支えるバレーフォードクリークに放出されてしまった事で水法違反に抵触してしまった。
2013年4月従業員が部分的に建設された池から2番目の小さな池に水を汲み上げる際に溢れ出し、推定739,910ガロンの濁った水をサーモンクリークの支流に流出させてしまったとの事。
濁水はサーモンクリークからボデガ湾の北の海に流れ込む事になります。
2016年スティーブ・キスラーは和解契約により、州水資源管理委員会の浄化及び除害に322,498ドルを支払う事になりました。また、257,202ドルをサーモンクリーク流域を含むゴールドリッジ資源保護地区の2つの環境プロジェクト資金として支払う事になりました。実は2000年にも環境堆積物による損害で罰金に直面しています。
川岸の樹木を切り倒し、セバストポル北部のサンタローザ湖に流れ込む小さな入り江に沈泥の塊を送り込んでしまった事で、10,000ドルの罰金を科された過去がありました。
実は、ワイナリー運営において建設時に環境破壊に抵触してしまう例は少なくありません。2015年にはRhys Vineyardsのケビン・ハーベイも同様の問題に直面しています。
スティーブ・キスラーがCEO兼ワインメイキングディレクターを辞任
スティーブ・キスラーの現在
現在、スティーブ・キスラーは新ブランドOccidentalのワインメーカーとしてワイナリーの中心に居ますが、スティーブ引退後は長女のキャサリンがワインメーカーとして指揮を執る予定のようです。次女のエリザベスもオクシデンタルの事業に参画しています。
スティーブ・キスラーの哲学は、テロワールの微妙な違いを表現する事を目的とし、その為に細部へ細心の注意を払う事が重要であると考えられます。
古くから受け継がれた伝統あるフランスの技術をカリフォルニアという新世界で展開する事で、唯一無二のカリフォルニア産高品質エレガント系ワインを送りだす事に重点を置き、2人の娘にそのミッションを託したのだと考えます。近い将来スティーブが築き上げてきた全てを引き継ぐ為に、キャサリンは日々修業を重ねています。2代目キスラー継承の日は近いかもしれません。
テイスティング・レポート
5種類のシャルドネ 2014年ヴィンテージ平行飲み比べ
2019年12月27日
Stone Flat
白い花や洋ナシの香りがあり、非常に華やかな。
マンゴーやパイナップルなどのトロピカルフルーツの香りも取れる。後味にやさしい酸が微かに残る。
Hudson Vineyard
柑橘類、青リンゴの中にスパイスの香りが感じられるのが特徴的。酸味と苦味が程よく感じられる。
Hyde Vineyard
香りはさほど華やかではないが、微かに白い花のニュアンスが感じられる。
果実味がシッカリしていて、恐らく土壌由来であろう苦味が少し残る。
Vine Hill
他の畑とは異なり香りの時点でハッキリとしたミネラルが感じられる。
味わいは上品な酸が後味で細く長く続く。キスラーの中でも最も酸が残るエレガントなタイプで当編集部では最高評価!
McCrea Vineyard
白い花の香りが強く非常に華やかな印象を受けるが、後味の酸はシッカリ感じられ見事なバランス。
Durell Vineyard 2013 vs Trenton Roadhouse 2012
2019年12月29日
Durell Vineyard Chardonnay Sonoma Coast
白桃、アプリコットの香りが取れるが他の畑に比べるとやや控えめな印象。
ソフトな甘みで後味の酸が長く続き、エレガントというよりは爽やかな印象を受ける。
Trenton Roadhouse Chardonnay Sonoma Coast
ヘーゼルナッツ、パイナップルの甘くフレッシュで力強い香り。
第2アロマで蜂蜜のニュアンスがシッカリ感じられる。甘みはまろやかで、線は細いが長く続く酸が印象的。
Dutton Ranch 2013
2020年1月2日
Dutton Ranch Russian River Valley
2種類のKistler Vineyard Chardonnay飲み比べ
2020年1月6日
Kistler Vineyard Chardonnay Sonoma Valley 2015
香りは非常に控えめでレモンのような柑橘系の印象を受ける。時間の経過と共に若干白い花の香りが取れる。
味わいは甘みがソフトで酸味がシッカリ感じられミネラリー。塩味が感じられるのが最大の特徴。
Kistler Vineyards Cuvee Cathleen Chardonnay 2013
香りは非常に控えめでグレープフルーツのような柑橘系の印象を受ける。
第2アロマでは貝殻、石灰のニュアンスも取れ、終始ミネラルな印象を受けるのが特徴的。味わいは甘みがソフトだが酸味は力強く長い。
Kistler Pinot Noir Cuvee Catherine 2004 vs Cuvee Elizabeth 2004
2020年1月10日
キュヴェ・エリザベスはスモーキーで埃っぽい土の香りの中になめし革のニュアンスが取れる。オレンジの皮、バラの花びらの香りも取れる。味わいはアタックが強く、凝縮感があり、ややタンニンが感じられる。色合いはピノノワールにしては非常に濃い。
キュヴェ・キャサリンはイエローピーチ、プラム、熟したフランボワーズのような豊かな果実の風味が特徴的。味わいは果実味豊かで酸味は滑らか。色合いはエリザベスに比べて明るい。当編集部ではズバ抜けて高評価でした。
入手不可能!キスラー・ピノノワールのバックヴィンテージ Kistler McCrea Vineyard Pinot Noir 1992 vs Dutton Ranch Pinot Noir1986
2020年1月12日
キスラー・マックレア・ヴィンヤードとダットンランチ・ヴィンヤードはシャルドネで有名な畑だが、以前はピノノワールも造っていました。当編集部では現在、生産されていない希少な2つのピノノワールのバックヴィンテージを入手しましたのでレポートします!
マックレア・ヴィンヤードは香りの熟した赤い果実、干しプラムの印象が強く、枯れ葉やタバコの香りも若干取れる。
味わいは甘みがソフトで、滑らかな酸味がハッキリ取れる。果実味豊かでまだ数年は熟柿に耐え得ると予想されます。非常に素晴らしい熟成でした!
ダットン・ランチは香りの熟成が進んでいる事から干しプラムの印象が強く、腐葉土のニュアンスも取れる。
味わいはソフトな甘みと爽やかな酸のバランスが見事!だが、熟成による黒糖のようなニュアンスがシッカリ現れており、飲み頃が過ぎている印象を受ける。
超希少なKistler Vineyards Cabernet Sauvignon 1990
2020年1月12日
キスラーではKistler Vineyardで1992年までカベルネ・ソーヴィニヨンも造られていました。
当編集部で、この希少なバックヴィンテージ1990を入手した為レポートします!香りはタバコや湿った葉、林床のニュアンスが非常に強く、甘みはドライで酸味が比較的シッカリ残っており、カベルネ・ソーヴィニヨン特有のタンニンはさほど強くないのが印象的でした。
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