カリフォルニアの転機となったパリスの審判

パリ・テイスティング(パリスの審判)

パリ・テイスティング(パリスの審判)とは

Steven Spurrier

Steven Spurrier
参照元:thetimes.co.uk

アメリカ独立200周年記念にあたる1976年、パリ発祥の歴史あるワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の英国人創設者スティーブン・スパリエ(Steven Spurrier)がワインをテーマにアメリカ独立記念を祝うイベントを計画。フランスのパリで米仏のワインを比較テイスティングするといったイベントが開催されました。

当時、世界の一強として王者に君臨していたフランスのワインを全く無名なカリフォルニアのワイン勢が打ち破るとは誰もが想像しませんでした。この20世紀の大事件はギリシア神話の一挿話になぞらえて「パリスの審判(Judgment of Paris)」と呼ばれるようになりました。

カリフォルニアワインvsフランスワイン ブラインドテイスティング対決までの経緯

Steven Spurrier with Patricia Gallagher

Steven Spurrier with Patricia Gallagher
参照元:greatbritishlife.co.uk

当時、ワイン学校を営んでいたスティーブン・スパリエの元にパリ在住の米国人女性パトリシア・ギャラガー(Patricia Gallagher)が参画しました。

パリでは英語でもワインを学べる環境が整っていたことから、米国人ワイン関係者が数多くパリを訪れ、その際にカリフォルニアワインをお土産で持参してくる機会があったことから、スティーブン・スパリエはカリフォルニアに素晴らしいワインが多く存在することを知っていたのです。

Judgement of Paris tasting

Judgement of Paris tasting
参照元:thedrinksbusiness.com

そこで、彼らはアメリカ独立200周年記念にあわせて何かワインでアメリカを祝うイベントが出来ないかと考えました。こうして実現したのがカリフォルニア産ワインとフランス産ワインのブラインド比較テイスティングという企画でした。

フランスのワイン業界において確固たる地位を築いていたスティーブン・スパリエの人脈から、出版社、名門レストラン、協会、学校、醸造家といったフランスのワイン業界を代表する著名人9名を審査員に迎え、米仏の赤ワインと白ワイン各10本をブラインドでテイスティングし採点。
※カリフォルニアが6銘柄でフランスが4銘柄の内訳。

また、赤ワインの品種はカベルネソーヴィニヨン、白ワインはシャルドネで統一といったルールで、パリのインターコンチネンタルホテルにて開催されました。

米仏ワインラインナップ

カリフォルニア 赤 カベルネソーヴィニヨン

Freemark Abbey 1969 (フリーマーク・アビー )
禁酒法時代が明けた1939年に南カリフォルニア出身の3人のビジネスマンAlbert “Abbey” Ahern、Charles Freeman、Marquand Fosterがナパバレー・セントヘレナで一時停止中の古いワイナリーを購入。3人の名前を組み合わせてフリーマーク・アビーと名付けられました。
Heitz Cellars 1970 (ハイツ・セラーズ)
1961年にナパバレー・セントヘレナに設立されたハイツ・セラーズは、1966年に単一畑(Martha’s Vineyard)のカベルネ・ソーヴィニョンを瓶詰めした最初のカリフォルニアのワイナリーです。
Mayacamas 1971 (マヤカマス)
マヤカマス山脈に囲まれた標高1,800~2,400フィートの場所で1936年にJack Taylorとその妻Mary Taylorによって禁酒法時代に放棄されたこの古い石造りのワイナリーを発見したことに端を発します。
Ridge Monte Bello 1971 (リッジ・モンテベッロ )
1885年、サンフランシスコのイタリア人医師Osea Perroneがカリフォルニア州サンタ・クルーズ・マウンテンにあるモンテベロ・リッジにブドウを植えたことに端を発します。長期熟成型のカベルネ・ソーヴィニョンを生み出し「カリフォルニアのシャトー・ラトゥール」と呼ばれ人気を博します。
Clos Du Val 1972 (クロ・デュ・ヴァル)
フランス・ボルドーの有名なワイン商人の子孫であるアメリカの実業家ジョン・ゴレとアンリエッタ・ゴレ夫妻が、1972年にナパバレー・スタッグスリープ地区で設立したワイナリー。クラシックなボルドースタイルのワインを造り出します。
Stag’s Leap Wine Cellars 1973 (スタッグス・リープ)
1970年にシカゴ大学で自由教育の講義をしていたウォーレン・ウィニアルスキーによってナパバレー・スタッグスリープ地区で設立されたワイナリー。バランスに重きを置いた長期熟成型のワインを生み出します。

カリフォルニア 白 シャルドネ

Veedercrest 1972 (ヴィーダークレスト)
カリフォルニアワイン業界のパイオニアの1人Al Baxterが1972年に初ヴィンテージをリリースし1980年代半ば迄続けるも、その後20年間は商業用としてワインがリリースされませんでした。その後2005年に復活。パリテイスティングにて最もフレンチスタイルのシャルドネであると評価されました。
Freemark Abbey 1972 (フリーマーク・アビー)
1976年に開催されたパリテイスティングにてカベルネソーヴィニヨンとシャルドネの両方をエントリーした唯一のワイナリーです。当時、このシャルドネは「Pinot Chardonnay」と呼ばれていました。
David Bruce 1973 (デヴィッド・ブルース)
スタンフォード大学で医学を学んでいたDavid BruceがDRC Richebourg 1954を飲んでワインの世界に魅了され、カリフォルニア州サンタ・クルーズ・マウンテンの標高2,100フィートでワイナリーを設立したことに端を発します。
Spring Mountain 1973 (スプリング・マウンテン)
不動産会社経営者Knight Michael Robbinsによって1962年にナパバレー・セントヘレナで設立されたこのワイナリーは1990年代にMiravalle、Chateau Chevalier、Streblow Vineyards、La Perla Wineryといった4つの独立したワイナリーが統合され運営されています。
Chalone Vineyards 1973 (シャローン)
サンフランシスコの南に位置するカリフォルニア州モントレー郡の標高1,800フィートの場所に設立されたブルゴーニュスタイルのシャルドネとピノノワールを造り出す伝説のワイナリーです。
Chateau Montelena 1973 (モンテリーナ)
カリフォルニアの中で最も歴史ある(1888年創業)ワイナリーの1つでフランス五大シャトーの1つChateau Lafiteシャトー・ラフィットの影響を受けた石造りの英国ゴシック様式のワイナリー。ボルドースタイルのカベルネソーヴィニヨンがメインですが、ナパ北部オークノール地区のブドウでミネラル豊富なシャルドネを生産しています。

フランス 赤 カベルネソーヴィニヨン

Chateau Haut Brion 1970 (オー・ブリオン)
1855年のメドック最高位の格付けに選ばれたシャトーでメドック格付け第一級、グラーヴの獅子と呼ばれる偉大なシャトーです。1533年開業の歴史あるシャトーです。
Chateau Mouton Rothschild 1970 (ムートン・ロートシルト)
100年以上も変更されることのなかった1855年のメドックの格付け。それを覆し、第一級に格上げされた唯一のシャトーです。毎年変わるアートラベルでも有名。
Chateau Montrose 1970 (モンローズ)
ロバート・パーカー氏をもってして「サンテステフ最高のスーパーセカンド」と言わしめる格付け第2級シャトーの中でも特に素晴らしい品質を持つシャトー。
Chateau Leoville Las Cases 1971 (レオヴィル・ラス・カーズ)
サン・ジュリアン村に位置し、シャトー・ラトゥールに隣接する恵まれた立地から造られるワインの質の高さから「サン・ジュリアンの王」と呼ばれ、格付け第一級シャトーにも引けを取らないスーパーセカンドとして評価されています。

フランス 白 シャルドネ

Puligny Montrachet Les Pucelles Leflaive 1972 (ピュリニー・モンラッシェ・ルフレーヴ)
1717年にクロード・ルフレーヴがブルゴーニュ地方はピュリニー・モンラッシェ村に居を構えたことに端を発します。このLes Pucelles(1er Cru)は2つのGrand Cru畑に隣接するといった好立地の畑です。
Meurault Charmes Roulot 1973 (ムルソー・シャルム・ルーロ)
1830年から続く歴史あるムルソー村の造り手で白ワイン最高生産者の1つ。
Batard Montrache Ramonet 1973 (バタール・モンラッシェ・ラモネ)
ピエール・ラモネ氏が1920年代に創設したドメーヌで、シャサーニュ・モンラッシェ村における一級クラスのドメーヌとして知られています。
Beaune Clos des Mouches Joseph Drouhin 1973 (ボーヌ・クロ・デ・ムーシュ ジョゼフ・ドルーアン)
1880年に創始者ジョゼフ・ドルーアン氏が設立したドメーヌでブルゴーニュ最大規模の自社畑を誇る超名門です。

誰もが信じられない結果が待っていた!

Chateau Montelena 1973 and Stag’s Leap Wine Cellars 1973

Chateau Montelena 1973 and Stag’s Leap Wine Cellars 1973
参照元:americanhistory.si.edu

ブラインドテイスティングは白ワイン赤ワインの順番で行われました。当初は赤白両方の採点が終了してから結果を発表する予定でしたが、ホテル側の進行が思いのほか遅れていたことから、先に採点が完了している白ワインの結果を急遽発表することになりました。

結果は1位がChateau Montelena 1973 (モンテリーナ)という当時無名のカリフォルニア産シャルドネだったのです。会場はどよめき、審査員たちはうろたえました。

次の赤ワインのブラインドテイスティングでは同じことが起こらないように、それは慎重にテイスティングを行ったそうです。そして、またもや信じられない結末が待っていました。審査員が1位に評価したのはカリフォルニアのStag’s Leap Wine Cellars 1973 (スタッグス・リープ)だったのです。
以下が白赤の全順位となります。

白ワイン (カッコ内の数字は点数※180点満点)

1位.(米) Chateau Montelena 1973 (132)
2位.(仏) Meurault Charmes Roulot 1973 (126.5)
3位.(米) Chalone Vineyards 1974 (121)
4位.(米) Spring Mountain 1973 (104)
5位.(仏) Beaune Clos des Mouche Joseph Drouhin 1973 (101)
6位.(米) Freemark Abbey 1972 (100)
7位.(仏) Batard Montrachet Ramonet 1973 (94)
8位.(仏) Puligny Montrachet Les Pucelles Leflaive 1972 (89)
9位.(米) Veedercrest 1972 (88)
10位.(米) David Bruce 1973 (42)

赤ワイン

1位.(米) Stag’s Leap Wine Cellars 1973 (127.5)
2位.(仏) Chateau Mouton Rothschild 1970 (126)
3位.(仏) Chateau Haut Brion 1970 (125.5)
4位.(仏) Chateau Montrose 1970 (122)
5位.(米) Ridge Monte Bello 1971 (105.5)
6位.(仏) Chateau Leoville Las Cases 1971 (97)
7位.(米) Mayacamas 1971 (89.5)
8位.(米) Clos Du Val 1972 (87.5)
9位.(米) Heitz Cellar Martha’s Vineyard 1970 (84.5)
10位.(米) Freemark Abbey 1969 (78)

映画「ボトル・ドリーム カリフォルニアワインの奇跡」

映画「ボトル・ドリーム カリフォルニアワインの奇跡」
参照元:rakuten.co.jp

この出来事は「パリスの審判(Jadgement of Paris)」と題して世界各地へ知れ渡ることになりました。これまでのフランスワイン一強という概念が打ち崩され、カリフォルニアワインが見直される大きなきっかけとなったのです。パリスの審判で上位にランクインしたカリフォルニアワインは即座に売り切れるほど影響が大きく、ワイン産業は新たな時代に突入したと言えるでしょう。

このとき1位を獲得した赤白両方のワインが現在も「アメリカワインの誇り」として、米国のワシントンD.C.にあるスミソニアン博物館に収蔵されています。また、あまりにも衝撃的なこの出来事は後に映画「ボトル・ドリーム カリフォルニアワインの奇跡」としてリリースされました。
※原題:BOTTLE SHOCK(2008年)

1986年「パリスの審判10周年企画」リターンマッチ開催

1976年に開催されたパリテイスティングではフランスのワイン業界関係者やマスコミから「カリフォルニアワインのエントリー本数が多かった(6割)」「フランスのワインは熟成してはじめて真価を発揮する」等のクレームがつきました。このような異議申し立てもあり、10年後の1986年にニューヨークで「パリスの審判10周年企画」としてリターンマッチが開催されることになりました。

ルールは赤ワインのみのブラインドテイスティングとなりましたが、10年前と同一のヴィンテージでの対決という条件(※(米) Freemark Abbey 1969 (78)は不参加。)で、審査員は米国のワイン業界関係者8名で行われました。果たして10年の熟成でフランスのワインは真価を発揮することが出来たのでしょうか。結果は以下の通りです。

Clos Du Val 1972 and Ridge Monte Bello 1971

Clos Du Val 1972 and Ridge Monte Bello 1971

1位.(米) Clos Du Val 1972
2位.(米) Ridge Monte Bello 1971
3位.(仏) Chateau Montrose 1970
4位.(仏) Chateau Leoville Las Cases 1971
5位.(仏) Chateau Mouton Rothschild 1970
6位.(米) Stag’s Leap Wine Cellars 1973
7位.(米) Heitz Cellar Martha’s Vineyard 1970
8位.(米) Mayacamas 1971
9位.(仏) Chateau Haut Brion 1970

またしても1位を獲得したのはカリフォルニア産のワインでした。今回は1位、2位とカリフォルニアワインが占める結果になりました。こうして「熟成することでフランスワインは真価を発揮する」といったクレームは覆されたのです。

2006年「パリスの審判」から30年後の再々戦 ~パリテイスティング完結編

今回は英国ロンドンと米国ナパの2拠点同時開催で、審査員は専門家各9名、1976年に開催された際に審査対象になったワインと同一ヴィンテージで、赤ワインのみの熟成による評価対決というルールで行われました。オーガナイザーはロンドンがスパリア、ナパがギャラガーで担当しました。仏ボルドーの熟成は30年を経過するとピークに差し掛かると考えられており、今回こそはフランスワインが優勢との見方が多かったようですが結果は次の通りとなりました。
※今回Freemark Abbeyは再度エントリーとなりました。

1位.(米) Ridge Monte Bello 1971
2位.(米) Stag’s Leap Wine Cellars 1973
3位.(米) Heitz Cellar Martha’s Vineyard 1970
4位.(米) Mayacamas 1971
5位.(米) Clos Du Val 1972
6位.(仏) Chateau Mouton Rothschild 1970
7位.(仏) Chateau Montrose 1970
8位.(仏) Chateau Haut Brion 1970
9位.(仏) Chateau Leoville Las Cases 1971
10位.(米) Freemark Abbey 1969

Paris Tasting California Red Wines

Paris Tasting California Red Wines

なんと、カリフォルニアワインが1位から5位までを独占するという結果になったのです。ちなみに2拠点とも1位のリッジ・モンテベロへの評価点が圧倒的に高かったとのことでした。このような歴史的大事件を契機にフランスワイン一強型から世界各国のワインに目が向けられるようになり、ワールドワイドにワイン産業が発展していったのだと考えられます。


※画像などの使用に問題がある場合、お手数ですがお問い合わせよりご連絡ください。

カリフォルニアワインについて

ABOUTこの記事の監修者

日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート
2011年よりカリフォルニアワインのバックヴィンテージを追求。 ナパバレー、ソノマに足を運び数多くの名門ワイナリーを訪問。 主に海外のワインオークションで希少なバックヴィンテージを調達。

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