1986年にナパバレーでカリフォルニアのシャトー・ムートンを造る事を夢見て、元弁護士という異例の経歴を持つJayson Pahlmeyerジェイソン・パルメイヤーが設立したPahlmeyerの歴史と功績をご紹介します。希少なバックヴィンテージのテイスティング・レポートもあわせてお届けします。
パルメイヤーについて
カリフォルニア州オークランドで生まれ育った
Jayson Pahlmeyerジェイソン・パルメイヤーは、ジョージワシントン大学で法律の学位(LLM)を取得し弁護士になります。
1980年のある時、Jayson Pahlmeyerジェイソン・パルメイヤーは大きなリーデルグラスに入った1952年のChateau Cheval Blancシャトー・シュヴァル・ブランを飲んだ際に感銘を受け、何年にもわたってフランスに旅行し、ワインを学ぶようになります。
法律の専門書よりもワインの専門誌を多く読んでいる事に気付いたJayson Pahlmeyerジェイソン・パルメイヤーは、1981年にパートナーであるCaldwell Vineyardの創業者John Caldwellと共に見つけたボルドー品種のクローンをスーツケースに入れ、カナダ国境を越えて密輸し、ナパバレーでそれを植える事に成功しました。
1986年にJayson Pahlmeyerジェイソン・パルメイヤーはセントヘレナで「カルフォルニアのムートン(Chateau Mouton Rothschild )」を造る事を夢見てPahlmeyerパルメイヤーを設立。ワインメーカーには
ダン・ヴィンヤーズの創業者Randy Dunnを迎え入れました。
ワインは当初CoombsvilleにあるJohn Caldwellの畑から調達したブドウを使い、Merryvale Wineryを間借りして生産していました。初年度はブドウの大半がRandy Dunnが運営するDun Vineyardsへ販売していた為、生産量は少量でした。
1989年にはBob Levyをシャルドネのワインメーカーとして迎え入れ、パルメイヤー最初のシャルドネをラインナップに追加しました。Bob Levyは医学生としてカリフォルニア大学デービス校に入学するも途中からワイン学に変更。
クラスメートにはMike Martini、Tim Mondavi、Randy Dunn等の後にワイン業界で有名になる人物がいました。卒業後、Cuvaison Wineryで修業し、Rombauer Vineyardsで創設時のワインメーカーを経験。その後15年間Merryvale Vineyardsのワインメーカーを務めました。そして、ハーランエステート及びBOND、The Napa Valley Reserveのワイン造りも監督していました。
勢いに乗るパルメイヤー
1992年にはパルメイヤーで使われなかった樽のワインでパルメイヤーの伝統に従い、細心の注意を払って造られる
セカンドブランド「Jayson by Pahlmeyer」を発足します。
翌年1993年には「Wine Goddess(ワインの女神)」の異名を持つヘレン・ターリーをワインメーカーとして迎え入れます。ヘレン・ターリーはブドウ栽培、調達、ワイン醸造の革新を通じてパルメイヤーの品質を改善しました。
ヘレン・ターリーは更にパルメイヤーの品質を高める為に、Jayson Pahlmeyerジェイソン・パルメイヤーにエステート(自社)の畑を開発するよう助言しました。
そして1998年にJayson Pahlmeyerジェイソン・パルメイヤーはナパの標高の高いAtlas Peakに土地を購入しボルドー品種とシャルドネを植えました。
同じ年にソノマコーストのヘレン・ターリーが運営するマーカッシン・ヴィンヤードの近くにあるWayfarer Farmを購入し、ピノノワールとシャルドネを植えました。どちらの畑もAbreu Vineyardsの創業者David Abreuによってブドウの木が植えられました。
Jayson Pahlmeyerジェイソン・パルメイヤーはWayfarer Farmの地で「Domaine de la Romanee-Conti社が手掛けるラ・ターシュ」を再現する事を目標としました。
2000年になるとErin Greenがパルメイヤーのワインメーカーとして任命されます。Erin Greenはカリフォルニア大学デービス校でワイン造りに魅了され、発酵科学の学位を取得しました。卒業後、Napa Wine Companyの立ち上げを経験し、ヘレン・ターリーと共にヘレン・ターリーの顧客Bryant Family、Colgin、Martinelli Winery等を手伝いました。
2003年には世界的に有名なMichel Rollandをコンサルタントとして迎え入れ、ワイン醸造チームに参画させました。Michel Rollandは年に3回アメリカのパルメイヤーを訪れ、Erin Greenとブレンドの開発をします。
映画ディスクロージャー(1994)で一躍有名に!
1994年にアメリカで上映された
映画「ディスクロージャー」で、デミムーアとマイケルダグラスがビバリーヒルズの人気レストラン「スパゴ」で食事をしているシーンがあります。
ソムリエの勧めでPahlmeyer Chardonnay 1991がテーブルに提供され、上司であるデミムーアは部下のマイケルダグラスをこのワインを飲みながら誘惑します。映画が放映されると何週間もの間パルメイヤーに問い合わせの電話が続いたと言います。
今日でも映画がTVで放映されるとパルメイヤーに問い合わせの電話が入ります。かつて、トムクルーズがトップガンで飲んだシャンパンTaittingerが150,000ドル相当の宣伝効果を獲得したという歴史もあります。
この映画で採用された事でパルメイヤーの知名度が更に上がった事は言うまでもありません。
次の世代へと受け継がれるパルメイヤーの運営
2008年に
娘Cleo Pahlmeyerがパルメイヤーの運営に参画します。
Cleoはバージニア大学で美術史の学士号を取得し、ロンドンのSotheby’s Institute of Artで美術と装飾美術の修士号を取得。ロンドンのBonhamsオークションハウスで勤務している時に、美術のみならずワインもオークションとしての扱いがある事を知りました。
そこで、父が運営するパルメイヤーの偉大さに気付きます。この頃から父が築き上げたパルメイヤーを支援するという事を意識し始めたと言います。
後にCleoは参画のきっかけを「2008年に父が引退したいという願望を表明し始めたので参画する事に決めました」と述べています。Cleoは販売とカスタマーサービスからスタートしました。その後、消費者への直接販売とマーケティング、広報を担当しました。
2012年になるとパルメイヤーの運営体制に大きな改革が行われました。
まず初めに、事業承継計画の一環としてBrian Hilliardを社長に任命します。Brian HilliardはJackson Family WinesとConstellation Brandsで副社長を経てパルメイヤーの社長に就任しました。
次に、Erin Greenがパルメイヤーを去るとKale Andersonがナパバレーのワイン生産を指揮し、Bibiana Gonzalez Raveがソノマコーストの運営を監督するコンサルティングワインメーカーに任命されました。Kale Andersonはカリフォルニア大学デービス校で植物のDNA修復について研究し、更にブドウ栽培と醸造学を習得。
その後、J Vineyards & Winery、Colgin Cellars、Terra Valentine Winery、Cliff Lede Vineyards等で経験を積みます。
Bibiana Gonzalez Raveはコロンビア出身の女性醸造家でフランスのブルゴーニュ、コートロティ、ボルドー、アルザス、コニャックで学び、ボルドー大学で醸造学の学位を取得。
その後Au Bon Climat、Peay Vineyards、Qupe Wine Cellars、Lynmar Estate等のカリフォルニアのワイナリーで14年の経験を積み、パルメイヤーに参画。
また、パルメイヤーはシャルドネとピノノワールに特化した
新ブランドWayfarer Vineyardを設立します。
この土地は1998年にヘレン・ターリーのアドバイスで購入した土地(Wayfarer Farm)で、Jayson Pahlmeyerジェイソン・パルメイヤーがカリフォルニアのラ・ターシュを造る可能性を秘めていると信じた場所です。
当初はロシアン・リバー・バレーのブドウとのブレンドで造られ、パルメイヤーブランドでリリースされましたが、ブドウの並外れた特徴が明らかになり、2012年からはWayfarer Vineyardブランドでリリースされるようになりました。
そしてワイナリーが創業30周年を迎えた翌年の2017年にJayson Pahlmeyerは身を引き、娘のCleo Pahlmeyerを社長に任命します。
2018年にはナパの高級リゾートホテルVista Collina Resortが開業し、その敷地内にJayson by Pahlmeyerのテイスティングルームをオープンしました。
他にもビールを含む合計9つのテイスティングルームがあります。Vista Collina Resortは料理とテイスティングの経験に重点を置いてワインを楽しみながら、屋外の芝生やラウンジエリアでリラックスして楽しめる場を提供しています。
リリースワイン一覧
カベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、シャルドネ、ピノノワール、マルベック、プティ・ヴェルドでこれまでに10種類以上のワインをリリースしてきました。
ここでは現在、リリースされているパルメイヤーのラインナップをご紹介します。
Pahlmeyer Proprietary Red
カベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド、マルベックといった伝統的なボルドーブレンドで構成されるPahlmeyer Proprietary Redは
1986年創業当社から続くパルメイヤーのフラッグシップワインです。
カリフォルニアのシャトー・ムートンを目指して造られるこのワインは最低でも25年の熟成を可能にすると言われています。
Pahlmeyer Merlot
殆どがエステートの果実で構成されるPahlmeyer Merlotは、これに匹敵するカリフォルニアのメルローは殆ど無いと言われているほど完成度が高く、2013年ヴィンテージではロバート・パーカー監修ワインアドヴォケイト誌で96点のスコアを獲得しています。
若いヴィンテージでも真価が発揮できますが20年から25年の熟成は可能と言われています。
Pahlmeyer Chardonnay
ナパバレーで最も標高の高い(1,500~2,100フィート)アトラスピークのエステートの果実で構成されるPahlmeyer Chardonnayは、その標高の高さから豊富な日光を浴び、ブドウが成熟する一方で、夜の涼しさが独特の酸を生成する為、華やかさとエレガントさを兼ね備えた世界クラスのシャルドネ造りを実現します。
Pahlmeyer "Savoir Faire" Chardonnay
晩熟で低収量の畑のブロックから丁寧に手作業で収穫されたブドウで構成されるPahlmeyer “Savoir Faire” Chardonnayは、100%新樽(フレンチオーク)で20ヶ月の熟成を経てからリリースされる超プレミアムなシャルドネです。
近年のパルメイヤーとPahlmeyerファミリー
2019年にカリフォルニアワイン業界の大手E.&J.Gallo WineryがPahlmeyerを買収しました。E.&J.Gallo Wineryは1933年に設立されたカリフォルニア州モデストに本社を置く老舗ワイナリーです。
契約にはPahlmeyerとJaysonの2つのブランドと在庫が対象となっており、パルメイヤーのアトラスピークにあるエステートブドウ畑「Waters Ranch」は含まれません。
Jayson PalmeyerとCleo Pahlmeyerは移行を支援する為にコンサルタントとして残ります。また、別ブランドとして立ち上げたWayfarer Vineyardは引き続きCleo Pahlmeyerが運営していきます。
カリフォルニアワイン業界では非常に困難とされている事業承継問題を無事クリアした創業者Jayson Pahlmeyerは、2019年の時点で74歳になります。現在は引退して2番目の妻Paigeとその19歳になる息子と一緒にハワイで暮らしています。
Jayson PahlmeyerにはCleoの兄弟Ralphがいます。Ralphはニューヨーク市で金融事業を経営しています。引き続きWayfarer Vineyardを牽引していくCleo Pahlmeyerは夫のJamie Watsonと2人の子供達と一緒にナパで暮らしています。
テイスティング・レポート
Pahlmeyer Chardonnay 2004
2020年7月3日
香りはパイナップル、洋ナシとハチミツ、バター、ブリオッシュのニュアンスが取れる。味わいは甘みはまろやかで酸味はやさしい。タンニンは穏やか。カリフォルニアのシャルドネらしいリッチな印象。やや強めの甘みが特徴的。
Pahlmeyer Pinot Noir 2007
2020年7月3日
パルメイヤーのピノノワールは2012年からはWayfarer Vineyardブランドでリリースされるようになった為、2012年ヴィンテージが最後となり、現在はリリースされていません。
今回はパルメイヤーラベル時代の希少なPahlmeyer Pinot Noir 2007を入手したのでテイスティング・レポートとしてご紹介します。
香りはラズベリー、ブルーベリー、プラムと赤スグリのニュアンスが取れる。若干スモーキーでスパイシー。味わいは甘みがまろやかで、酸味がなめらかな。タンニンはシルキー。非常にバランスが良い印象を受けるがやや甘みが強め。
Pahlmeyer Proprietary Red Caldwell Vineyard 1990
2020年7月3日
パルメイヤー創業当初の何年かはパートナーであるJohn Caldwellが運営するCaldwell Vineyardのブドウで造られていました。当時はラベルにもPahlmeyer Caldwell Vineyardの表記がありました。当編集部ではこの希少なPahlmeyer Caldwell Vineyard 1990を入手したのでテイスティング・レポートとしてご紹介します。
香りはブラックチェリー、干しプラムと若干、針葉樹のニュアンスがあり、スモーキーでスパイシーな印象もややあり。味わいは甘みはソフトで酸味はシッカリとしている。タンニンには収斂性が感じられるが熟成によって溶け込んでいる。シッカリとした酸味が特徴的でまだまだ熟成するポテンシャルを感じる。
当編集部ではPahlmeyer Proprietary Red Caldwell Vineyard 1990がダントツで高評価でした。甘みが気にならない方はPahlmeyer Pinot Noir 2007お勧めできます。
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