Heitz Cellar

ハイツ・セラー(Heitz Cellar)

カリフォルニアで初めて単一畑指定ワインをリリースし、3度行われた伝説の米仏ブラインドテイスティング対決「パリテイスティング」で9位、7位、3位と好成績を収めたセントヘレナの老舗ワイナリーHeitz Cellarハイツ・セラーが辿った栄光の軌跡をご紹介します。貴重なバックヴィンテージのワインテイスティングレポートもあわせてお届けします。

ハイツ・セラーについて

Joe and Alice Heitz

Joe and Alice Heitz
参照元:pinterest.jp

ナパバレーで歴史ある伝説のワイナリーHeitz Cellarハイツ・セラーはJoe and Alice Heitzが1961年にセントヘレナの8エーカーのブドウ畑を購入した事から始まります。Joe Heitzはイリノイ州プリンストンの農場で育ちました。

第二次世界大戦後、アメリカ空軍に入隊する為に学校を中退。終戦後、カリフォルニア大学デービス校でブドウ栽培とワイン醸造学の修士号を取得。卒業後はE.& J.Gallo Wineryでアシスタントワインメーカーに就任。1950年代にはBeaulieu Vineyardで有名なAndre Tchelistcheffと一緒に働き多くを学びました。
また、ハイツ・セラーを始める直前の1950年代後半にはフレズノ州立大学の教授を務め、ワイン醸造学部の設立に貢献しました。そしてFreemark Abbeyフリーマーク・アビーの最初のワインメーカーであるLeon Brendelが所有するセントヘレナの南にある土地と小さなワイナリーを購入し、1961年にハイツ・セラーを設立します。

当初は他の生産者からワインを購入しハイツ・セラーのラベルでリリースしていました。この時点ではシャルドネとピノノワールがメインでしたが、すぐにChristian Brothers Wineryからの買いブドウでカベルネ・ソーヴィニョンのリリースを始めました。

Heitz Cellar Label

Heitz Cellar Label
参照元:wine-searcher.com

1964年になるとTaplin Roadの端にあるFred Holtが所有する古いRossi Ranchを購入しワイナリー運営に必要な更に広い敷地を確保します。敷地内には1898年に建てられた古い石造りのワイナリーと小さなゲストハウスが併設されており、このゲストハウスはHeitz Hiltonハイツ・ヒルトンと呼ばれていました。

当時10歳だったJoe and Alice Heitzの息子David Heitzはワインの樽を背景にワイングラスを持つ人の絵を描きました。この絵を著名なイラストレーターMallette Deanに依頼しハイツ・セラーのラベルを作成しました。

1965年になるとハイツ・セラーでは1960年代初頭から続くTom May and Martha Mayによってオークビルに設立されたMartha’s Vineyardマーサズ・ヴィンヤードからカベルネ・ソーヴィニョンを仕入れ始めます。翌年1966年にハイツ・セラーはこのワインのユニークな特徴を活かして独自にリリースする事にしました。今でこそ普及していますが、このMartha’s Vineyardマーサズ・ヴィンヤードを単一畑指定ワインとしてリリースした事でハイツ・セラーは単一畑のカベルネ・ソーヴィニョンを瓶詰めした最初のカリフォルニアのワイナリーとなりました。

勢いに乗るハイツ・セラー

David,Joe and Alice Heitz

David,Joe and Alice Heitz
参照元:heitzcellar.com

Martha’s Vineyard10周年を記念する1974年になるとJoe and Alice Heitzの息子David Heitzがハイツ・セラーの運営に参画します。David Heitzはフレズノ州立大学でワイン醸造学の学位を取得しています。

1976年にはBarney Rhodes and Belle Rhodesが所有するラザフォードの17エーカーの畑Bella Oaksベラ・オークスからカベルネ・ソーヴィニョンを調達し始めます。ベラ・オークスはマーサズに続き2番目のシングルヴィンヤード(単一畑)となります。

Barney Rhodes and Belle RhodesはMartha’s Vineyardマーサズ・ヴィンヤードのブドウ畑の作業を手伝っていた事もありハイツ・セラーと密接な関係になっていくのは自然な事でした。

1984年にはラザフォードの東側、Silverado TrailとConn Creekの間に位置するTrailside Vineyardを取得し、1989年にHeitz Cellar Trailside Vineyard Cabernet Sauvignon Napa Valleyのファーストヴィンテージをリリース。3番目のシングルヴィンヤード(単一畑)となりました。

更に1988年にはハウエルマウンテンの頂上にあるInk Grade Vineyard を取得してブドウの調達先を拡大します。ブドウ栽培の天敵でもある害虫フィロキセラの影響もあり1993年から1995年までの3年間、マーサズ・ヴィンヤードのカベルネ・ソーヴィニョンは生産されませんでしたがハイツ・セラーの勢いは目を見張るものがありました。

2000年12月16日ハイツ・セラーの創設者であるJoe Heitzが亡くなりました。享年81歳。ナパバレーのみならずカリフォルニア全体のワイン造りと生産の芸術と科学に対する彼の貢献はワイン業界と未来のワイン生産者に永続的な印象を残しました。Joe Heitz のワイン哲学は次の世代(息子と娘)に引き継がれました。
それでもハイツ・セラーの勢いは衰える事はありませんでした。

Kathleen Heitz Myers and David Heitz

Kathleen Heitz Myers and David Heitz
参照元:heitzcellar.com

2002年になるとハウエルマウンテンの森の中にある7エーカーのLinda Falls Vineyardリンダ・フォールズ・ヴィンヤードを取得します。

更に同年2002年にセントヘレナの南に位置する創業地にハイツ・セラー・テイスティング・ルームを建設します。また、2011年には娘のKathleen Heitz Myersがハイツ・セラーの社長に就任します。息子のDavid Heitzは引き続きワインメーカーとして従事します。

伝説の米仏ブラインドテイスティング対決パリテイスティングでの快挙

Paris Tasting

Paris Tasting
参照元:thedrinksbusiness.com

1976年にフランス・パリのインターコンチネンタルホテルでアカデミー・デュ・ヴァンのスティーブン・スパリエが米仏ブラインドテイスティング対決「パリテイスティング」を開催しました。

この当時はまだワインと言えばフランスが圧倒的にメジャーな時代でしたがスティーブン・スパリエはカリフォルニアワインの高い品質を知っていた為、このイベントを実施してみたいと思ったのでした。

審査員はフランスのワイン業界を代表する著名人9名で、赤白10種の米仏ブラインドテイスティング対決という形で進められました。この伝説のパリテイスティングは誰もが予想しない結果となったのです。

赤白10種の米仏ブラインドテイスティング対決
1位.(米) Stag’s Leap Wine Cellars 1973
2位.(仏) Chateau Mouton Rothschild 1970
3位.(仏) Chateau Haut Brion 1970
4位.(仏) Chateau Montrose 1970
5位.(米) Ridge Monte Bello 1971
6位.(仏) Chateau Leoville Las Cases 1971
7位.(米) Mayacamas 1971
8位.(米) Clos Du Val 1972
9位.(米) Heitz Cellar 1970
10位.(米) Freemark Abbey 1969

この結果に納得がいかなかった審査員達は10年後の1986年にリベンジマッチを申し出ました。その結果が以下です。

10年後の1986年にリベンジマッチ
1位.(米) Clos Du Val 1972
2位.(米) Ridge Monte Bello 1971
3位.(仏) Chateau Montrose 1970
4位.(仏) Chateau Leoville Las Cases 1971
5位.(仏) Chateau Mouton Rothschild 1970
6位.(米) Stag’s Leap Wine Cellars 1973
7位.(米) Heitz Cellar 1970
8位.(米) Mayacamas 1971
9位.(仏) Chateau Haut Brion 1970

またもやハイツ・セラーを含むカリフォルニア勢がフランスの名門ワイナリーを打ち負かしたのです。そして10年後の2006年に英国ロンドンとアメリカナパの2拠点同時開催で再々戦が行われました。結果は以下の通りハイツ・セラーを含むカリフォルニア勢が圧勝したのです。

10年後の2006年に英国ロンドンとアメリカナパの2拠点同時開催で再々戦
1位.(米) Ridge Monte Bello 1971
2位.(米) Stag’s Leap Wine Cellars 1973
3位.(米) Heitz Cellar 1970
4位.(米) Mayacamas 1971
5位.(米) Clos Du Val 1972
6位.(仏) Chateau Mouton Rothschild 1970
7位.(仏) Chateau Montrose 1970
8位.(仏) Chateau Haut Brion 1970
9位.(仏) Chateau Leoville Las Cases 1971

こうしてハイツ・セラーはカリフォルニアのみならず世界レベルで不動の地位を築いていったのです。
パリテイスティングの詳細はこちらの記事を参考

近年のハイツ・セラー

Gaylon Lawrence

Gaylon Lawrence
参照元:bizjournals.com

2018年4月にハイツ家は75年の歴史を持つ農業経営の投資家ローレンス・グループのGaylon Lawrenceにハイツ・セラーを売却し、57年間のワイン造りを終えて優雅に引退しました。

新しいオーナーであるローレンス・グループはハイツ・セラーが達成した全ての偉業を引き継ぎつつ、ワインの世界での地位を刷新するというコミットメントが重点的なビジョンとなっています。

現在、ハイツ・セラーは、セントヘレナ、ラザフォード、オークビル、ハウエルマウンテン、カリストガ、オークノール等ナパバレーの主要な地域に合計1,100エーカーの土地を所有しており、そのうち約425エーカーでブドウを栽培しています。

ブドウ畑はサスティナブル農法で有機栽培(CCOF認証)を行っています。2019年と2020年には完全にビオディナミ農法に移行しており、ナパバレーでは最大のブドウ畑所有者となっています。

ワインテイスティングレポート

Heitz Cellar Martha’s Vineyard 1987 vs Bella Oaks Vineyard 1984 vs Trailside Vineyard 1991
2020年10月23日

Heitz Cellar Martha's Vineyard 1987 vs Bella Oaks Vineyard 1984 vs Trailside Vineyard 1991

ハイツ・セラーズではカベルネ・ソーヴィニョン、ソーヴィニョン・ブラン、シャルドネ、グリニョリーノ、ジンファンデル、ジンファンデル・ポートを生産しています。全体の生産量は年間4万ケース近くで、そのうち約2万5千ケースがカベルネ・ソーヴィニョンです。今回、当編集部では大変貴重なハイツ・セラーズ・シングルヴィンヤード3種のバックヴィンテージを入手しましたのでテイスティングレポートとしてお届けします。

Heitz Cellar Martha’s Vineyard 1987

1960年代初頭から続くTom MayとMartha Mayによってオークビルに設立された35エーカーのMartha’s Vineyardマーサズ・ヴィンヤードから調達し始めたカベルネ・ソーヴィニョン。このマーサズ・ヴィンヤードがカリフォルニアで初の単一畑指定ワインとなりました。

熟したプラムのような赤系果実と黒系果実の中間のようなニュアンスの中にミントやユーカリの香りがハッキリと取れる。また黒スグリの香りとスパイシーで鉛筆の芯を連想させるニュアンスが取れる。味わいは甘みはさほど強くなくソフト。酸味は比較的シッカリと残っており、タンニンはこのヴィンテージでもハッキリと感じられる。独特のミントのニュアンスがとても印象的でした。

Heitz Cellar Bella Oaks Vineyard 1984

1976年に偉大なワイン愛好家として知られるBarney RhodesとBelle Rhodesがラザフォードに所有する17エーカーの畑Bella Oaksベラ・オークスから調達し始めたカベルネ・ソーヴィニョン。このベラ・オークスはマーサズに続き2番目のシングルヴィンヤード(単一畑)となります。

ブラックチェリーや黒スグリの香りの中にややスモーキーなニュアンスが取れる。また、やや湿った土のニュアンスもある。味わいは甘みはさほど強くなくソフト。酸味は非常にシッカリと残っており、タンニンは溶け込んでいる印象。強い酸味がとても印象的でした。

Heitz Cellar Trailside Vineyard 1991

1984年にSilverado TrailとConn Creekの間に位置する85エーカーのTrailside Vineyardを取得し、この畑から収穫されたカベルネ・ソーヴィニョン。ブドウ畑の各ブロックは別々に発酵および熟成され、ワインメーカーが最適な樽を選定して造られます。

ブラックチェリーや黒スグリの香りの中にブラックペッパーのような非常にスパイシーなニュアンスが取れる。また、タバコや葉巻のようなニュアンスも取れる。味わいは甘みはさほど強くなくソフト。酸味は非常にシッカリと残っており、タンニンは溶け込んでいる印象。ブラックペッパーのようなスパイシーなニュアンスがとても印象的でした。

3つのハイツ・セラー・シングルヴィンヤードのテイスティングを通していずも甘さ控えめで酸がシッカリとしているという点で共通している印象を受けました。どれもかなりハイレベルな味わいですが、玄人向けと思われるHeitz Cellar Martha’s Vineyard 1987が当編集部では高評価でした。

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カリフォルニアワインについて

ABOUTこの記事の監修者

日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート
カリフォルニアワイン協会認定資格 California Wine Certification Program Level 2

2011年よりカリフォルニアワインのバックヴィンテージを追求。 ナパバレー、ソノマに足を運び数多くの名門ワイナリーを訪問。 主に海外のワインオークションで希少なバックヴィンテージを調達。

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