1986年に開催されたパリテイスティング10周年企画「リターンマッチ」にて、フランス五大シャトーのシャトー・ムートンやシャトー・オーブリオンを押さえ、赤ワイン部門で堂々の第1位に輝いたClos Du Valクロ・デュ・ヴァルの栄光と軌跡を徹底解説!貴重なバックヴィンテージのテイスティング・レポートもお届けします。
クロ・デュ・ヴァルについて
フランス・ボルドーの有名なワイン商人の子孫であり、オーストラリア(Taltarni Vineyards 1972年取得)とフランス(Domaine de Nizas 1998年取得)にワイナリーを保有し、ヨーロッパ最大の牡蠣販売会社(The Satmar Company)も経営するアメリカの実業家ジョン・ゴレとアンリエッタ・ゴレ夫妻が、1972年にナパバレーでClos Du Valクロ・デュ・ヴァルを設立しました。
ワインメーカーには1944年にフランスのコニャックで生まれ、ボルドー地方で育ち、五大シャトー「シャトー・ラフィット」のテクニカルディレクターを務めた父を持つベルナール・ポルテを迎え入れ、共同経営者にもなりました。
ベルナール・ポルテは、ヨーロッパスタイルの世界最高品質のカベルネ・ソーヴィニヨンを生産するというビジョンを持っていました。
クロ・デュ・ヴァルの名前は、「小さなブドウ園の土地」を表すフランス語に由来しています。
また、ロゴはギリシア神話とローマ神話に登場する魅力と美、そして優雅を象徴する三人の女神「三美神」を象徴しています。
※それぞれ魅力(charm)、美貌(beauty)、創造力(creativity)を司っています。
ある時、ベルナール・ポルテはナパを訪れた際に車のエアコンが故障し、窓から手を出してシルバラードトレイルを運転していると、運転中に気温が下がった事に気付きました。
調査の結果、ナパバレーのスタッグスリープ地区が冷涼な気候で、ボルドータイプの品種に非常に適している事がわかり、後にワイン造りのために150エーカーの土地を購入しました。
この土地はフランスのワインに見られる優雅さと、カリフォルニアのワインに見られるフルーツの豊かさの調和が取れたワインを生み出しました。
彼の手掛けるカベルネ・ソーヴィニヨンは、常にメルローとカベルネ・フランがブレンドされ、当時のナパバレーのプロデューサーの間では非常にユニークと評価されていました。
彼は力強さよりも優雅さとバランスに重点を置いており、ワインが食べ物をより良く補う事を可能にしました。
世界中に知れ渡ったクロ・デュ・ヴァルのワイン
1972年に造られた彼の最初のワインは、後に「パリテイスティング」の場でワインの歴史を大きく動かす事になります。
時は1976年、フランス・パリのインターコンチネンタルホテルで、米仏のワインをブラインドで比較テイスティングするといったイベントが開催されました。公平を期すため赤ワインはカベルネ・ソーヴィニヨン、白ワインはシャルドネで統一といったルールが適用されました。
この赤ワイン部門のラインナップにクロ・デュ・ヴァルが選定され、見事8位に入賞しました。
更に1986年には、「パリスの審判10周年企画」リターンマッチが開催されました。当時の対決と同じヴィンテージで、10年後の熟成したワインによる勝負が行われたのです。
これは、フランス側から「フランスのワインは熟成してはじめて真価を発揮する」といったクレームが付いた事に端を発します。
結果は赤ワイン部門で、(仏) Chateau Montrose 1970、(仏) Chateau Leoville Las Cases 1971、(仏) Chateau Mouton Rothschild 1970、(仏) Chateau Haut Brion 1970を抑えて、クロ・デュ・ヴァルが1位に輝いたのです。
こうして熟成する事でフランスワインの真価が発揮するというクレームは覆されました。
結果としてクロ・デュ・ヴァルが造るカベルネ・ソーヴィニヨンとナパバレー・スタッグスリープ地区に注目が集まり、世界的な認知をもたらす事になりました。
進化を続けるクロ・デュ・ヴァル
1973年になると、ナパバレーでカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローを栽培するため、最適な地域としてスタッグスリープ地区を選んだように、シャルドネとピノノワールを栽培するのに最適な地域を見つけました。
非常に涼しい気候、強い午後の風、穏やかな冬。
ブルゴーニュタイプのワインを造るというアイデアで、ナパバレーのカーネロス地区に180エーカーの土地を購入しました。
ここはGrand Val Vineyardと呼ばれ、(後にCarneros Vineyardと改名されました。)1979年に土地の開発を開始し、1980年に最初のシャルドネを植えました。
その後、1981年から1984年までにピノノワールが植えられました。そして、1988年ヴィンテージが1992年にリリースされた事で、晴れてクロ・デュ・ヴァル・ピノノワールがデビューとなりました。
その後も勢いは止まらず、1999年までに生産量は2,000ケースとなり、新たな植え付け、植え直しを経て10,000ケース規模にまでキャパを広げます。更に1997年から1999年の間に11.6エーカー、2002年に10.8エーカーの増植が進められ、シャルドネ、ピノノワールでも確固たる地位を築き上げます。
クロ・デュ・ヴァルが管理する3つの地区Stag’s Leap District、Yountville、Carnerosについて
スタッグスリープ地区ヒロンデル・ヴィンヤード Hirondelle Vineyard
サンパブロ湾からの涼しい風を取り入れた理想的な気候で有名なStags Leap Districtは、理想的な酸味を保ちながら、ビロードのようなタンニンとブドウ本来の風味を持つワインを生産しています。
40年以上にわたり、ヒロンデル・ヴィンヤードは、ナパバレー最大のカベルネ・ソーヴィニヨンの産地です。
この畑ではカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルロー、プチ・ヴェルド、マルベックが栽培されています。
ヴィンヤードの名前の由来はフランス語で「ツバメ」を意味し、ワイナリーが建設されて以来、毎年春になると戻ってきて建物の側面に巣を作る「ツバメ」の存在から来ています。
ヨントヴィル地区ステート・レーン・ヴィンヤード State Lane Vineyard
中心地にある丘(Yountville Mounts)が、サンパブロ湾から北に向かう冷たい空気と霧が谷を上るのを防ぎ、午後の暑さを和らげます。
この温度調節効果により、涼しい気候が生まれ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、ソーヴィニヨン・ブランに最適な環境を生み出します。
現在、10.5エーカーのカベルネ・ソーヴィニヨン、5エーカーのカベルネ・フラン、2エーカーのソーヴィニヨン・ブランがあります。
※2002年、ブドウ園全体がクロ・デュ・ヴァルの仕様に合わせて再植林されました。
ヨントヴィル地区リバーベンド・ヴィンヤード Riverbend Vineyard
ナパ川地域に隣接する100エーカーの敷地で、木々とナパ川に囲まれたこのブドウ園は、肥沃で健康的な生態系に恵まれています。
この畑には10種類のカベルネ・ソーヴィニヨン(クローン)とメルロー、プチ・ヴェルド、カベルネ・フラン、マルベックが栽培されており、少量ではありますが、ソーヴィニヨン・ブランとヴィオニエも栽培されています。
カーネロス地区グラン・ヴァル・ヴィンヤード Gran Val Vineyard
1973年にブルゴーニュ品種を栽培する目的で購入したこの土地は、ソノマとナパの2つの郡に跨がっていますが、グラン・ヴァル・ヴィンヤードはナパバレー側にあります。
シャルドネとピノノワール以外にも少量のメルローとカベルネ・フランが栽培されています。
標高は約50フィートから300フィートで、25%ほどの急斜面になっています。
土壌は岩が多い粘土ロームが特徴で、気候は冷涼であるため、ピノノワールは滑らかで、バランスが良く、果実味も豊かで、シャルドネは非常にフレッシュで香りと酸味が良質です。
リリースワイン一覧
Hirondelle Vineyard Cabernet Sauvignon ヒロンデル・ヴィンヤード・カベルネ・ソーヴィニヨン
ヒロンデル・エステート・ヴィンヤードの最上級4ブロックから造られた100%カベルネ・ソーヴィニヨン、100%新樽(フレンチオーク)のフラッグシップ。
参照元:closduval.com
Three Graces Cabernet Sauvignon スリー・グレイセス・カベルネ・ソーヴィニヨン
ヒロンデル・エステート・ヴィンヤードの最高級ブロックから選択された99%カベルネ・ソーヴィニヨンと1%カベルネ・フランのブレンドです。
参照元:closduval.com
SVS Cabernet Sauvignon エスブイエス・カベルネ・ソーヴィニヨン
カベルネ・ソーヴィニヨン主体でカベルネ・フラン、メルロー、プチ・ヴェルドをブレンド。SVSとはSpecial Vineyard Selectの略です。
参照元:closduval.com
Hirondelle Vineyard Cabernet Franc ヒロンデル・ヴィンヤード・カベルネ・フラン
99%カベルネ・フランですが、1%だけカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンド。スタッグスリープ地区の畑から収穫されたブドウを使用。
参照元:closduval.com
Petit Verdot プチ・ヴェルド
ナパバレーのブドウで造られた100%プチ・ヴェルド。ナパバレーでは100%プチ・ヴェルドを生産するワイナリーは非常に珍しいです。
参照元:closduval.com
Gran Val Vineyard Carneros Pinot Noir グラン・ヴァル・ヴィンヤード・カーネロス・ピノノワール
カーネロス地区グラン・ヴァル・ヴィンヤードから収穫されたピノノワール100%で造られます。
参照元:closduval.com
Carneros Pinot Noir Rose カーネロス・ピノノワール・ロゼ
カーネロス地区の畑で収穫されたピノノワール100%で造られます。2018年ヴィンテージは、2019年のトップロゼの1つとしてVinePair(NYのお酒メディア)で選出されました。
参照元:closduval.com
Gran Val Vineyard Carneros Chardonnay グラン・ヴァル・ヴィンヤード・カーネロス・シャルドネ
独自で40年以上にわたり培ってきたカーネロスの畑のブドウのみを使用して造られます。
参照元:closduval.com
Single Cooper Series Carneros Chardonnay シングルクーパーシリーズ・カーネロス・シャルドネ
カーネロス地区のシャルドネの中でも特別に厳選した樽で熟成されたのがこのシングル・クーパー・シリーズです。
参照元:closduval.com
State Lane Vineyard Yountville Sauvignon Blanc ステート・レーン・ヴィンヤード・ヨントヴィル・ソーヴィニヨン・ブラン
ヨントヴィルのステート・レーン・ヴィンヤードで少量栽培されているソーヴィニヨン・ブランを100%使用しています。
参照元:closduval.com
クロ・デュ・ヴァルが実施した大改革
クロ・デュ・ヴァルは1970年代から1980年代にかけて人気のワイナリーでしたが、1997年頃から状況が変わってきます。
市場はアルコール度数が高く、良く熟したブドウを使い、果実味とタンニンを最大化させ、甘みを伴うスタイルのワインが流行りだしました。
それでもクロ・デュ・ヴァルはクラシックなボルドースタイルを貫きました。
これに対して影響力のある2人の評論家がクロ・デュ・ヴァルのワインを批判したのです。記事は思いのほか影響を及ぼしました。
そして、2009年の終わりにベルナール・ポルテはクロ・デュ・ヴァルを退職しました。
(※後にHeritance Wineを立ち上げます。)
2014年、クロ・デュ・ヴァルは生産量を年間90,000ケースから35,000ケースへと劇的に減らし、スタッグスリープ地区、ヨントヴィル、及びカーネロスのエステートブドウ園(自社畑)からのみ少量の良質なワインを造る事に専念しました。
このクロ・デュ・ヴァルが実施した重要な改革に伴って、2016年にジョン・マーク・シャペレを運営ディレクターに
、テッド・ヘンリーをワインメーカーの役職に任命しました。
ジョン・マーク・シャペレはナパのChappellet Vineyardの創業者を両親に持ち、自身もChappellet Vineyardのオペレーションディレクターとして20年過ごした経歴を持ちます。
テッド・ヘンリーはナパバレーのJarvis Estateでワインメーカーとして、過去7年間を含むボルドー品種ワインの15年以上の経歴を持ちます。
2018年後半に、この新たなビジョンに合わせて、新しいテイスティングスペースを完成させました。
ヒロンデル・ヴィンヤードを見下ろす3,000平方フィートのレトロモダンなテイスティング施設は、屋内外にゆったりとしたテイスティングスペースを確保。
インテリアは建物の内壁と天井に、ワイナリーで使用されていた発酵タンクからの大きなオークが使われています。
この新しい建物はヒロンデルハウスと呼ばれ、ツバメを表すフランス語にちなんで名付けられました。
鳥は幸運の兆候であり、ワイナリーの設立以来、ツバメは毎年春に戻ってクロ・デュ・ヴァルに巣を作ります。2014年に真っ向から取り組んできた一連の大改革が、鳥が運ぶ幸運と共に実を結ぶ事を願います。
2019年クロ・デュ・ヴァルはジョン・マーク・シャペレの社長昇進を発表しました。
彼こそ2014年から実施されてきたクロ・デュ・ヴァル大改革の立役者なのです。「絶えず変化する業界でターゲット市場に適切な製品を追求していきます」ジョン・マーク・シャペレはこのように述べています。
テイスティング・レポート
Clos Du Val Cabernet Sauvignon 1996 vs Cabernet Sauvignon Reserve 1996
2020年2月11日
クラシックとも呼ばれるこのカベルネ・ソーヴィニヨンは1996年のヴィンテージでも色合いは縁にオレンジが若干掛かっている程度。香りは杉や針葉樹、ブラックペッパーのスパイシーなニュアンスが取れる。
味わいは果実味がシッカリと感じられ、タンニンはシルキー。開いてくるとややカカオやチョコレートのニュアンスも取れる。
古き良きクラシックなスタイルが存分に感じられる。玄人向け。
長期熟成を経て造られるリザーヴ・シリーズのカベルネ・ソーヴィニヨンは、熟した黒い果実のニュアンスがあり、土の香りがある。
また、クラシックに比べてカカオ、チョコレートがハッキリしている。味わいは甘みがソフトで、酸は滑らか。タンニンはクラシックよりも更にシルキー。万人受けするタイプ。
当編集部では前者のクラシックが高評価でした。
クロ・デュ・ヴァル・カベルネ・ソーヴィニヨン・ナパ・ヴァレー 2016の購入はこちら
クロ・デュ・ヴァル・ピノノワール 2014の購入はこちら
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